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2013.4.2   日経産業新聞の記事「TechnoOnline:錯覚と失策の歴史、科学者には頭の悪さ必要?」から

『科学者になるには自然を恋人にしなければならない』

コラムの著者 和田昭允氏(東京大学名誉教授)は、大正・昭和にかけて東京大学理学部物理学教室、地震研究所、航空研究所で活躍、さらに文筆家であった寺田寅彦氏のエッセーから、科学者のあり方について語っている。

○逆説の科学者像

和田教授も言うように、「科学者は『あたま』がよくなくてはいけない」と思われてる。寺田氏は、「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」という逆説の科学者像を提示するという。

寺田氏が指摘するのは、常識的に分かり切っていると思われていることの中に、何かしら不思議を感じることが科学的研究に不可欠だという。この点で科学者は普通の頭の悪い人よりももっと物分かりの悪い、のみ込みの悪い頭を持っている必要があるという。ただし、科学では「物事の部分と全体の関係」について正確に議論をするところでは頭脳は明晰でなければならない。

和田教授が寺田氏のエッセーから以下を抜粋している。(岩波文庫『寺田寅彦随筆集第四巻』より)

頭のいい人には恋が出来ない。恋は盲目である。科学者になるには自然を恋人にしなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである

科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である。偉大なる迂愚者の頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である。頭のいい人は批評家に適するが行為の人になりにくい。すべての行為には危険が伴うからである。けがを恐れる人は大工になれない。失敗をこわがる人は科学者になれない。科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山に築かれた殿堂であり、血の川のほとりに咲いた花園である。一身の利害に対して頭がいい人は戦士にはなりにくい

この老科学者の世迷い言を読んで不快を感じる人はきっとうらやむべきすぐれた頭のいい学者であろう。またこれを読んで会心の笑みをもらす人は、またきっとうらやむべく頭の悪い立派な科学者であろう。これを読んで何事をも考えない人はおそらく科学の世界に縁のない科学教育者か科学商人の類であろうと思われる。

寺田氏や和田教授の科学者像は暗にビジネスの世界にも通じる。happy01

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