発明王や有名な企画者が、どんどん新しいアイデアを実現するには、連想や究極(締め切り?)だけでは説明がつきません。そこには、発想のコツのようなものがあるのではないか、と考えるかたも多いでしょう。
この会では、発想のコツや特効薬を化学反応に例えて触媒と呼ぶことにします。
触媒を意図的に使ったのは、発明王エジソンでした。ひらめき発想型です。ひらめくためを起こすため、彼は理論ではなく実用主義のひらめきを大切にしたことで有名です。エジソンと白熱電球で有名な話は、白熱電球そのものを発明したのは実はエジソンではなく、英国人のジョゼフ・スワンであるというのが真相です。ただ、エジソンは、電球そのもの構造でスワンの実績を認めたものの、耐久性が工業上重要であるという、ひらめきでは負けてはいなかったのです。電球の耐久性は、発光するフィラメントが決め手でした。エジソンは、さらにスワンを追い抜くために、電球の長寿命化をさらに超えることが重要だとひらめいたのです。電球だけでは、電気の応用としては狭い。電気を売る商売、電力事業を考えていたエジソンは、もっと電力を使うものに興味を持ったのです。
そこで触媒の登場です。ここでの触媒は「拡大」です。電力を継続的に使う、明かりとしての電球以外に、もっと大量の電気を定常的につかって、頻繁にスイッチを切らないものはないかという発想です。彼の発明した蓄音機も、映写機も、トースターも、電話も、電気を「拡大」して、大量に使うことを意図して生み出した発明です。電球では1個にすぎない。昼間は使わない。継続して、スイッチを点けっぱなしにして、大量に電力を使うものがエジソンの発明のひらめきだったのです。
ひらめきを促す触媒は、表1にあるように、多種多様です。触媒は、それ自身では、何の意味もありません。しかし、あるアイデアに反応すると、効果が現れ別のアイデアを生む、促進剤です。また、触媒は、アイデアを生むときに、効果があるのは、一つ二つです。どんなひらめきにも利用できるとはいえないものです。
エジソンは、電球一個を点灯することに興味がなかったのではないのでしょう。ただ、彼は、一個ではなく、「大量」の電球の点灯が脳裏にあり、ひらめきは電力の大量消費を行うものはないか、だったのです。1つの電球のこだわりではなく、電球を超えて、電力を大量に消費し、恒常的に使われるものにこころが踊ったことです。
別の触媒を取り上げて、エジソンの電球で考えてみましょう。電球の中身を「大きく」使って何かを作れないかというひらめきです。今度は、同じ拡大でも大量ではなく、「大きさ」です。フィラメントをむき出しにして大きくする。それでも焼き切れないものであれば、光らずとも熱を発生します。そう、電気ヒータができますね。エジソンは、同様に電気ヒータからトースターを発明して、全米の家庭にこれをおけば、電気の消費につながるとも考えました。現に、当時一日三食パン運動を提唱したぐらいです。
さらに、電球を制作する際に空気を抜く「真空技術」の応用も、エジソンは触媒である「拡大」を使って、真空度を「上げた」際におこった現象を発見しました。加熱されたフィラメントから電子が放出される現象、エジソン効果です。後に、高校時代にも習ったこともある「フレミングの法則」で有名なジョン・フレミングは、エジソン効果を使って、世界初の「真空管」を発明しました。
触媒で拡大したひらめきで出て来たアイデアをどんどん実用したのがエジソンです。ここでのプラクティスは、身近な改善提案で触媒を使って、効果を上げ、改善後も有効であり続けるような方策を体験してみましょう。
触媒は、アイデア出しをスムーズにします!
触媒の働きは、アドバイスに似ています。アドバイスは、アイデアの展開に苦しんでいるときは、貴重な意見となります。ただ、アイデアが良い悪いといった批判だけではアドバイスとは言えません。一緒になって、アイデアを発展させようと、さまざまな角度からアイデアを出してくれるなら大変助かりますね。頭を柔軟にして、いろんな思考パターンを受け入れる状態を共有してもらえばもっとスムーズにアイデア出しができるでしょう。ただ、いつでも、こんな都合のよい状況ができるとは限りません。そこで、表にあったような触媒を使って意図的に、自分の頭の中で、問答をすることになります。
エジソンも自分の頭の中と対話して、「拡大する」、「大きくする」の触媒で無理にアイデアを拡大したり、大きくしたりしたのです。そして新しいひらめきを得たのです。
さて触媒は、大きく分けて、3つあります。1つは、人間に関するものです。どんなヒット商品の企画も、ビジネスであるからには、お客様は人間になります。(ペットショップの商品でも、買うのは飼い主の人間ですね!)人間の欲求に関わるものは、触媒になりやすい特徴もあります。
次に、時間、空間、ロジック(論理)関係です。これは我々の社会を形成しているものです。ヒット商品も社会の枠組みで有効に使われるものであるなら、時間、空間、ロジックの影響を受けます。例えば、商品1つを考えても、新発売から、徐々に普及し始めて、そのうちに大勢の人が、その商品を知るようになります。このような時間の経過は、商品寿命と言われ、時間の関係をもっています。空間は、商品の大きさや広さだけでなく、サービスを受ける年齢層やサービスの範囲なども指します。
ロジックは、一種の「屁」理屈です。「主客転倒」という触媒を取り上げて説明してみましょう。例えば、「かまぼこ」を考えます。かまぼこの主は、具になる部分で、従は、板の部分です。主客転倒して、具が従で、板が主になると、どんなイメージが湧いてきますか?材木に具がついたもの?それでも良いですが、板の方が立派であればどうでしょう?そんなものはない、と考える前に、板ではなく、輪島塗の平皿にかまばこがあるというイメージではいかがでしょう?これに似た実例として、おまけ菓子の大人買いがあります。おまけの方が中身のお菓子よりも人気があったといったヒット商品は、まさに主客転倒の例でしょう。
環境系の触媒は、アイデアに係る環境を極端に変えてしまうものです。前回のサバイバルのようなプラクティスもこの触媒の例です。「現実/仮想」の触媒の事例をあげてみましょう。縁日でにぎわう露店。これは現実ですね。これをインターネットで実現したものが、仮想商店街です。仮想商店街のサイトは、お客様に見える商品陳列のページと、売上や在庫、支払状況などがわかるバックのページも現実と同様に管理されています。このように現実と仮想の相似性を使って発想することもできます。
今回のプラクティスは、一旦出たアイデアで改善したものの、今度さらに良い改善策を出そうというものです。ここで「触媒」を意識的に使って改善策を拡げることが狙いです。